【注目記事】在タイ日系企業が導入すべき勤怠管理システム(2024年度版)

タイでの起業: 共同経営者による会社乗っ取りの危機とその対処法

みなさん、こんにちは。

2001年、25歳の時にタイで起業した前田千文です。

「女社長の海外起業と経営術を語るブログ」に

ご訪問頂きありがとうございます。

このブログにたどり着いたというあなたは

外国や海外での起業、 もしくは海外に住んでみたい…など

どんな理由があるかはわかりませんが、

海外に興味があり、かつ、いつかは起業してみたいという方なのではないかと思います。

今日は知り合いのA社長が経験した

共同経営者から会社の乗っ取りに遭いそうになった話 です。

目次

共同経営者による会社乗っ取り: タイでの起業の危機

タイでの起業: 会社乗っ取りは日常の一部?

A社長は私と同じ、1998年来タイ。

たまたま、私が起業前にお世話になっていた会社の社長と親しかった…という共通点があり

お会いした時に思い出話に花を咲かせていました。

A社長も私も、タイで起業したという共通点もあり

当然ながら話は『起業して経験した、普通では経験できない話し』になりました。

このA社長が経験したのが、

共同経営者(S氏)から知らない間に会社が乗っ取られそうになっていた…という話。

ぜひブログに書いてください!

とA社長が言うので書くことにしました…

講義風景
2015年よりタイ労働法の講師をしています。

A社長のタイでの起業経歴

A社長はもともとあるメーカーの駐在員として来タイします。

奥様がタイの方…ということもあり、タイでの起業を考えるようになりました。

駐在員である以上、いつかは日本へ帰任を命ぜられるか、

第3国へ転勤を命ぜられる可能性があります。

タイで培った経験やタイ語のスキルなどを今後も生かしたい…

と考えるようになりました。

また周囲も

奥様もタイ人だし、

長くいることになるんだから、起業してはどうか…

と勧められ、勤めていた会社を退職し起業することに決めました。

当時、仕事上でお世話になっていた、

A社長より20歳年上のS氏と一緒に会社を立ち上げます。

当時A社長は30代後半、S氏は50歳代後半…。

S氏は技術系出身者で、日本でも会社を長く経営しており

そういったことからA社長はこのS氏をとても頼りにしていたそうです。

当時、お世話になっていた先輩経営者であるX氏(私が起業前にお世話になった会社の社長)に

今度Sさんと一緒に会社を立ち上げようと思うのですが…

と、X氏にS氏を紹介します。

そうしたところ…後日連絡が来て

Aくん・・・。Sはダメだ…。一緒に起業するのは止めたほうがいい…

とX氏…。

理由を聞いたのですが、はっきりと答えてくれなかったということで

S氏と一緒にやることに決めます。

A社長がS氏と共に立ち上げた会社は外資規制がある会社だったそうです。

それで出資を次のように行ったそうです。

S氏:40%…

A社長:9%

A社長の奥さま:31%

その他の株主:20%

という構成で登記し会社をスタートさせたそうです。

それから2年後…S氏と仕事上で衝突することはあったにせよ

お互い協力して会社を盛り立てスムーズに経営できていたそうです。

ある日…A社長は会社でレンタカーの契約をしようとします。

レンタカー会社から

最新の登記書類一式を提出してください

と言われます。

商務省で取り寄せて、それを見た経理スタッフPさんが…

スタッフ

あれ?これ?おかしいですね?

A社長と奥様の名前がなくなってます。

知らない人の名前になってるんですが…。

と…。

このとき、A社長は一体何が起きたのか、すぐには理解できなかったそうです…

車載カメラの風景です。
車載カメラで撮影した、バンコク随一の金融街であるサトーン通りの交差点です。各国の銀行や証券、保険会社の本社が並ぶ通りです。この先にはアメリカ大使館、日本大使館、オランダ大使館などがあります。

株主名簿から消えた自分の名前: 会社乗っ取りの兆候

レンタカーを契約するため最新の登記書類を取り寄せたA社長…

そこには株主である自分と奥様の名前があるはずがなくなっている…

商務省へ確認に行こうとしたところ…

K銀行より会社の経理担当のPちゃんに電話が…

K銀行の○○です。

今窓口にSと名乗る日本人男性が来ています。

御社の預金全額である2,000万バーツを現金で引き出したいと言っています。

今まで日本人の人は一度も来た事がないし

いつもPさんが来ているので…

ちょっとおかしいと思いまして…

この時会社では、あるプロジェクトの代金が支払われたばかりで

銀行に潤沢なキャッシュがありました。

A社長の会社では、金銭に関わることは全て

A社長、S氏の連名でサインをすることになっていました。

当然ながらA社長、S氏の双方のサインがないとお金を引き出すことも出来ません…

ただ…窓口にS氏が1人でやってきたいう現実が進行中です。

ここで経理担当者Pちゃんが大活躍です。

実は、株主名簿に今まであったA社長と、奥様の名前がなくなっているんです。

知らない人の名前に代わっていて…

そういうことであれば口座を一時凍結します。

早めに商務省に行って、株主名の確認を取ってください。

A社長、経理担当Pちゃんは事実関係を確認するために商務省へ向かいます。

そこで驚愕の事実を知るのです…

偽造された書類: 会社乗っ取りの証拠

銀行へ2,000万バーツを引き出しに行ったS氏…。

銀行員の機転で何とか預金は守られ口座は一時凍結…。

そしてA社長、経理担当Pちゃんは事実関係を確認するために商務省へ向かいます。

商務省では、会社の登記関連の書類を全て閲覧できます。

株主名簿から自分の名前(A社長)と奥様の名前が消えていて

その事実関係を確認したところ…

このような記載を発見します。

XXXX年X月X日 株主総会。

A氏およびA氏の妻(○○)が会社役員を解任される。

A氏のサイン権は消失。代表サイン権はS氏。

A氏、A氏の妻が保有する株式はD氏、E氏、F氏へ譲渡。

A社長が知らないうちに、株主総会が開催されたことになっていました。

D氏、E氏、F氏は全く知らない人で、A社長も奥様も面識がありません…

株主総会が開催された・・・

(厳密には)開催したという偽造が行われていた…

しかも、会社の定款も変更され、株式も第三者に譲渡したことになっていました。

書類上は、A社長も、A社長の奥様も会社に関係のない赤の他人になってしまいました。

A社長は商務省の担当官に、こう切り出します。

株主総会なんて開催されていませんし

株も譲渡していません!

この書類のサインは私のサインでもなく、妻もサインしていません!

ここで商務省の担当官から、信じられないことを告げられます。

そうですか…。

ただ、書類を確認したところ問題なかったので受領しています。

Aさん…。

あなたの言う事が本当だと言うのであれば

刑事裁判所に、あなたが訴え出るしかありませんね…

この書類が偽造されたものであることを

Aさん…あなた自身が証明しなければなりません。

そんなバカな!!

私は被害者なんですよ!

商務省では何も出来ないって、

そんな…そんな…

まずは刑事訴訟の手続きをしてください。

そこから始めないと、1度変更された株主名簿は修正が出来ないんです。

A社長は商務省の対応にとても腹が立ったそうですが

ここで押し問答しても何も解決できない…

と判断し、すぐに刑事訴訟の手続きを開始します。

商務省の担当官によると…

タイ人同士で、かつ家族経営の場合は

A社長のケースで会社の経営権を失うことが多いそうです。

ただ日本人同士で、しかも他人同士で起こることは

商務省の担当官も初めてのケースかも…と。

担当官から

なかなか証明するのは難しい…

と言われますが、

なんと!A社長は偽造を証明したのです…。

どうやって偽造を証明したのでしょうか…

この時のことをA社長は…

この偽造を証明できていなかったら

自分は今この会社にいない…

Sに2,000万バーツ持っていかれ会社は倒産していたと思う。

本当に運が良かった…

A社長が偽造を証明した方法: 会社乗っ取りの対策

ウソの株主総会が行われ、株も勝手に他人に譲渡されていたA社長・・・

商務省では、受理した書類の訂正はできないと言われ・・・

A社長はS氏を刑事告訴します。

S氏を告訴したA社長…

どうやって”株主総会が“行われていなかった”を証明するのか…。

まずは、S氏が商務省に提出した書類を全て確認することから始めます。

疑義が掛けられたS氏・・・。

S氏は刑事裁判所の求めに応じ、全ての書類を提出します。

また身分証明書であるパスポートも提出します…

A社長があることに気が付いたそうです…

(うその)株主総会が行われた日付は『XXXX年X月X日』

この日は確か…

S氏のパスポートを見たところ株主総会が行われたとされる日に

S氏はタイにいなかったのです…

株主総会の議事録には、このように書いてありました。

株主総会はS氏本人が開催。本人が出席した…

これで、商務省に提出された株主総会そのものが

ウソのものだったと証明されるのです。

当然ながらS氏側も黙っていません…。

A社長、奥さま、経理のPちゃんを

名誉毀損、営業妨害、背任、横領などなど…

思いつくあらゆる罪状を使って反訴してきます。

ただ・・・

株主総会はウソ…株式の譲渡もウソ…

勝手に預金を全額引き出そうとし…

ウソの書類を商務省に提出…

S氏の行為は、文書偽造…背任…横領…

これらの罪になるのが濃厚…。

形勢はA社長が有利に働くのですが…。

A社長はある決断を下すのです。

そして、S氏は何故偽造を思いつき、行動を起こすのでしょうか?

S氏の偽造理由とA社長の決断: 会社乗っ取りの結末

S氏による株主総会の偽造を見破ったA社長。

双方の訴訟合戦となり・・・

A社長はふと思います…

なぜSさんは会社を乗っ取ろうとしたのだろう…

S氏は日本でも会社を経営していました。

かなり羽振りも良かったことから

お金には困ってないはず…

そう思っていました。

S氏の日本の会社はどうなってるんだろう…

帝国データバンクに調査依頼をします…

結果は…A社長と会社を立ち上げる前から債務超過に陥っており

会社は潰れていてもおかしくない状況でした…。

ここ3年は実質経営をしていない休眠状態だったことも判りました。

また…

自分の名前の変わりに株主名簿に記載のあった人物…

D氏、E氏、F氏は誰だろう…

どうも…共同経営者のS氏は女性に入れあげておりD氏が“その”女性…

では、E氏、F氏は???

S氏の知らない一面を知り落胆するものの、そんな暇も無く…。

そんなある日、A社長の元に知らない番号から電話が…

02-xxx-xxxx

不在着信履歴が残っていました。

折り返し電話をすると…

スタッフ
H株式会社です。
あれ?この会社コンサルティング会社だぞ?

そしてA社長はこう切り出します。

すみません…。そちらにEさんという社員はいますか…
スタッフ
はい、おりますよ~。

A社長は自分の弁護士にこのやり取りを話しました。

弁護士が調べてくれてS氏の弁護士は

このH株式会社の社員だと言うことが判りました…

裁判のやり取りを通じて

どうもS氏に、株主総会の“でっちあげ話”を持ちかけたのは

H株式会社の日本人社長だった…というのが判明します。

形成的に圧倒的に有利なA社長…

しかし、A社長は最終的に示談を選択します。

どういうことかと言いますと・・・

まずS氏、A社長の双方が『この株主総会は“間違いでした”』

と商務省に訂正の書類を提出します。

そして新たな株主総会を開催します。(株主総会の議事録の修正)

A社長、奥様から株を譲渡されたとされるD氏、E氏、F氏から

再度、A社長、奥様に株を譲渡します。(手続き上です)

双方(A社長、S氏)が刑事告訴を取り下げをします。

そしてS氏の扱いは…。

徹底的に遣り合う事も可能でしたが、

S氏が保有する株式をA社長が譲渡という形でS氏から株を購入しました。

しかし、かなり安価な金額で…。

要は、A社長はS氏にお金を渡したのです…。

私は最終的に“株の譲渡”という形で

A社長とS氏が示談した話しを聞いたときに

私(前田千文)
なんでですか???信じられません!!!

とA社長に問いかけました。

普通…この状況で示談と言う選択は無いと思うのです…。

A社長は静かに言いました・・・

そうですね・・・

確かに前田さんがそう思うのは無理ないと思いますね・・・

私の友人全員、同じ反応ですから・・・

S氏を追い詰めることは100%出来ましたし、

そうすべきだ…という人がほとんどでした。

でも…。

こんなことに労力とお金を使うのは不毛だと思ったんです。

会社がある以上…お客様のため、社員のため、家族のため

会社を盛り立てて行かないといけないんです。

これ以上、S氏を追い詰めても何も生み出さないので…。

追い詰めるのは・・・

ただの自己満足なんじゃないかと・・・

S氏も今回の件で、多くのものを失いましたし・・・

私としては…S氏が保有する株を安く買うことが出来たのでそれで良しとしました。

そして・・・

今ではこの話しは笑い話ですよ。

と言って明るく話すA社長を見て

私(前田千文)

もし、私が同じ経験をしたら…どうしたんだろう…

と考えました。

A社長の大きさを感じた出来事でした。

このA社長の経験が、起業を目指す方、海外で起業を目指す方の参考になれば幸いです。


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この記事に関するコメントをお待ちしております!

コメント一覧 (2件)

  • S氏が日本帰国中を株主総会開催日にするような間抜けでなかったら、偽造の証明は難しかったのかな?
    この記事を見る限り、会社役員であればタイでは会社の乗っ取りは容易に行えそうですね。

    • Aさま

      コメントありがとうございました。
      私も実際にA社長からこの話を聞いたときはとても驚いたとともに。怖さを感じました。
      もしS氏がタイ国内にいたのであれば、偽造を証明することが難しかった可能性が高いです。
      何とも言えませんが、タイでは日常的にある話だと聞いております。

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